アイデア発想の技法
星野匡『発想法入門」(日本経済新聞社 日経文庫)は、ビジネスの世界で使われる代表的な発想技法を44本紹介している。
筆者の分類によれば、①連想を刺激する方法 ②発想の枠組みを切り換えるための方法 ③情報の組み合わせを作る方法がある。
企業ではこれらを、新製品開発や営業戦略の発案などに活用するのだろうが、私は授業のアイデアを練るのに使っている。とくに書式があって、書き込んで作業を進められるようになっているものが便利である。
「ことわざ発想法」は、課題の下に、ことわざの欄、ことわざの意味を書く欄、意味に対応するアイデアを書く欄が10行ある。前向きなことわざを10個選んで書き、それぞれ浮かんだアイデアを記入していく。
たとえば、「スピーチの授業を改善する」テーマで、「鬼に金棒」から「『この話なら」という十八番のテーマを見つけさせる」。
「旅は道連れ」から「2人スピーチなら、緊張せずに話せるかも」、といった具合。
「風桶法」は、風が吹けば桶屋がもうかる式に無関係なものをこじつけることで発想しようとするもの。矢印で結ばれた5つの欄の最後に目標を書き、はじめに無関係な状況設定を書く。私は「生徒が級友の話をもっと熱心に聞く」という目標を立て、はじめの状況設定に、「爆竹が鳴れば」と置いた。そのころ、学校で爆竹のいたずらが頻発していたので。
間の3つの空欄(ブリッジ)に上から、「状況の洞察」、下から③「面」を書き、最後にまん中の欄を、②大胆な仮説で埋める。
爆竹が鳴れば→①みんなの気持ちがそちらへ持って行かれる →②爆竹によって学校権力に一撃を食らわした英雄が武勇伝を語りに教室に入ってくる →③級友の話に期待が高まっている →みんな自発的に拍手して、熱心に級友のスピーチを聞く。
ここから出たアイデアは、「一撃によって期待を起こさせる。その期待に応える形でスピーチを行なう」→「ひとりずつ話のテーマを自分で決め、秘密にしている。前に出て教師にたずねられてはじめて明かす。「オー、それは楽しみだ』と教師が拍手すれば、つられてみんなも拍手し期待が高まるのでは」。
この他、前提にしている仮説をわざと逆にしてみる「逆設定法」。たとえば「私が心を開けば生徒も心を開く」という信念を「私が心を開かない方が生徒は心を開く」と逆にすると、「私が陰険な態度で生徒の反発を買えば、かえって生徒同士の団結・自発性が出てくるのでは」などという発想が出てくる。
必ずしもすぐ使えるアイデアが出るわけではないが、ただ漫然と考えているより、問題を多面的に考え、頭を柔らかくしてくれる効果はある。こうした努力が、あとあとのひらめきにつながってくるのではないか。
(図はいずれも、星野匡『発想法入門』より)
1995年12月