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執筆者の写真教育エジソン

NLPの力(不登校気味の高校生の事例)


 以前にも紹介したNLP(神経言語プログラミング)は、ミルトン・エリクソン、フリッツ・パールズら優れた心理療法家の面接技術を観察し、技法化したものと言われる。深い心の働きに即して言語やイメージを使い、心や行動の問題を解決していく技法の体系である。

 末尾に紹介した2著では、NLPの考え方と技法を、身近な場面での活用事例をもとに紹介している。私はこれらを読んでNLPの実感がつかめ、少しずつ使い始めた。

 Yさんは、明るく、クラスや生徒会で活発に活動する生徒だったが、二学期後半から、不登校傾向が出てきた。2時間、3時間にわたる遅刻が増え、やがて、週に1、2度は休むようになってしまった。朝起きられない。何とか起きても、腹痛がきて、行けなくなってしまう。担任であった私は、何度か呼んで話を聴いてみた。人間関係に敏感な彼女は、友達が陰で自分の悪口を言っているのではないかと思い始めると、その想念がどんどん肥大して、追い詰められてしまうと言う。

 NLPで言うアウトカム(そうなりたい自分)を訊いてみると、「人に何か言われても平気な自分、強い自分になりたい」と言う。「気にする自分がいても、脳の片隅ならいいんだけど、今は、脳の4割くらいで平気と思っても、6割くらいは気にしてるから。この割合を変えられたら」。私がうなずいて、「それができる方法があるよ」と言うと、「え、あるんですか?」と目を輝かした。次の面接で試してみようと、約束した。

 それは、NLPの得意技である。

 友達が陰で、自分のことを悪く言っている。「Yったらさあ……」。彼女の心には、そのいやそうな顔と声が浮かぶという。それをテレビ画面にするよう指示した。ビデオだから、止めたり、早送りしたり、いろいろできる。早口でしゃべったり、低音で間延びして話したり……、やっているうちに、彼女の顔が緩み、やがて、クスリと笑いが漏れた。心に引っかかって仕方のなかったイメージから、ディソシエイト(分離化)することができた証拠である。

 そうしたら、それをいいイメージと入れ替える。「じゃ、そのビデオは取り出して、新しいビデオを入れよう。これは、彼女が最高にいい顔して、優しいことばをかけてくれる映像だよ。じゃ、入れてみよう。……再生ボタンを押して。映像が出てきます……」。じっと彼女の様子を観察していると、とてもリラックスして映像を楽しんでいる様子。「見えた? どう? どんな気持ち?」と聞くと、「何だか、涙出そう。……とってもうれしい」。

 この感じを条件反射でいつでも思い出せるようにすることをNLPでは、「アンカリング」と言い、たとえば腕に触れる動作で、感じがよみがえるようにする。しかし、それではあまりに漠然としているので、私は、自分で手のひらを押して気持ちのいいツボを見つけ、それにアンカリングすることを教えた。

 最後に感想を聞くと、気持ちが晴れ晴れとして、これから何とかやっていけそうだ、という。本当に霧が晴れたような笑顔で帰って行った。その後、ときどき遅刻はしながらも、学校には毎日来るようになった。

 NLPのいくつかの技法を組み合わせてみたのだが、このときの面接の効果は、劇的でありながら、きわめて自然に感じられた。

 同じころ、他のクラスで不登校傾向が出ていた女子にも面接したが、やはりNLPのアプローチが役立ち、登校できるようになった。彼女の場合は、運動部に賭ける頑張り屋さんだったが、あるときから胸の辺りに「ズンと来る」ものを感じて、朝が苦痛になった。

2人に共通するのは、前向きな意欲が人一倍あるのに、むしろそれが自分を追い込む方向に作用していたことである。

 NLPでは、人の行動には必ず「肯定的意図」があると考える。問題と見える行動も、良かれと思う心の表われなのである。まずそれを認め、その意図を邪魔しているものを取り除いていく。そこで、本人の持っているもの(リソース)を最大限に活用する。NLPは、人間の可能性をどこまでも信じ続けるために、力を与えてくれる方法論である。

〈参考文献〉

▼堀井恵『子供、親子、夫婦の問題を解決する』 東洋出版 1500円

 家族の中に起こる、さまざまな問題。それを不幸ととらえる見方を転換して、幸せへのステップととらえる。そのための具体的方法として、NLPが力になる。具体例を豊富に紹介しつつ、技法を体系的に整理してまとめてある。NLPを学びたい人の基本書と言える。

▼チームドルフィン編著 『子どもの意欲を引き出す』 公人の友社 1500円

 堀井恵(けい)さんの主宰する講座の修了生27人が分担執筆した「NLP活用事例集」。教員や専門学校講師、塾経営者などが多いが、カウンセラー、医療関係者もいる。「コミュニケーションとは、相手の意欲を高めること」、「失敗はない。そこには学びがある」、「人の行動の裏には、必ず肯定的意図がある」などのNLPの基本前提に立って、自分の身近にいる子供や生徒たちと関わっていく。その結果、プラスの意欲を引き出し、自己解決を促していった事例が出ている。一人ひとりが現実の課題と真剣に取り組んだ体験談なので、その悩みに共感し、解決への道すじを、実感を持ってたどることができる。とくに、リアルな会話の実例は、とても役立つ。

2005.9.

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