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執筆者の写真教育エジソン

高校生公開ディベート②本番の巻


 T区民文化センターのホールは、ほぼ満席だった。区内の4高校が出場し、2試合目。相手は、男女共学の私立高校である。

 肯定側の立論。Uさんの書いた立論原稿を、Sくんがゆっくりと読み上げた。「子ども総合省」は子どもに関する諸問題を根本的に解決するため、児童相談所を直轄組織とし、情報収集と問題解決に当たる――。Sくんのスローペースが、むしろ自信に見える。否定側の男子からの質疑も、とぼけた応答でのらりくらりとかわし、会場の笑いを誘った。

 否定側は、やはり財政面で攻めてきた。累積赤字の詳細な数値を読み上げ、行政改革に逆行する流れだと批判した。また、例えば虐待をする親の側にもケアが必要なのに、子どもだけを保護するのは片手落ちだとした。

 Nくんが質疑に立った。気が気でない私をよそに、淡々と質問する。批判的な質問に、相手の女子はむきになった。Nくんの冷めた態度が、ますます相手を駆り立てる。対照的なやり取りが、また聴衆を沸かせた。

 否定側の第1反駁。虐待やいじめには、外から介入しにくい難しさが本質的にあり、新省庁の創設では解決できないと指摘した。

 肯定側第1反駁のKくんは、現在の行政では子どもの問題は十分解決できていないとデータを挙げ、財政面での厳しさはあっても、子どもを健全に育てることが最優先だと、緊張した面持ちで、しっかりと述べた。

 否定側の第2反駁。省ばかり作っても中身が薄ければ意味がないとし、財政的負担は人々を追い詰め、治安の悪化や問題の増加を招く可能性さえあると指摘した。

 肯定側第2反駁は、Gくん。やはり現在の行政では対応しきれない問題の増加を挙げ、解決が困難だからこそ、抜本策を実行する新しい力が必要なのだと力説した。強い闘志を表して相手の主張すべてに反駁を試みた。

 普通のディベートはここで終わるが、今回は「最終立論」があった。しかし、演壇に進んだ否定側の女子は、少しメモを読み上げただけでことばに詰まってしまった。原稿の用意もなく、上がってしまったらしい。会場から「がんばれ」と声援がかかったが、時間途中であきらめ、しょげ返って席に戻った。

 最後に立ったUさんは、虐待死事件への行政の遅れを指摘し、総合省の創設は、子どもの問題に国民全体が本気で取り組んでいく大きなきっかけになるはずだ、と訴えた。

 判定は、第1試合の出場生徒が行なう。結果は、同点引分け。勝敗にこだわるGくんはしきりと悔しがったが、後味は悪くない。

 帰りに寄った喫茶店で、私がNくんの質問の口調を真似ると、みな屈託のない顔で笑った。散々やきもきして、ハラハラして、最後にホッとして、「この野郎」と思う。それが、大きな成長可能性を秘めた人々とつきあう、教師の因果というものなのだろう。

2004.4.

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